ある休日の父と娘の言い合い

2007年06月30日 02:16

「おい!アキナ!これはなんなんだ!!」
「なにって、見りゃわかるっしょ?服だよ服ー。バーゲンやってたからついつい買ってきちゃった★」
「きちゃった★じゃないだろ!!いくらなんでもこの量は異常だ!一体いくら使ったんだ!」
「えー、だって安かったんだもーん」
「安いのだってたくさん買えばとんでもない値段になるんだよ」
「まー、確かに今日は買いすぎちゃったかなーとは思うけどー」
「明らかに買いすぎだ!部屋中足の踏み場がないじゃないか!」
「だいじょぶだいじょぶ。よければ平気だってば」
「いや、俺が言ってるのは金の話だ!」
「いいじゃんよ、たまにはパーッと使ったって。バーゲンなんだし」
「よくない!お前はうちを破産させる気か!!ただでさえボーナスもほとんどなくて大変なんだぞこっちは!!」
「そうそう、そこだよ、おとーさん。日本は今赤字が酷いんだよ」
「知ったような口をきくな!お前は行動が伴ってないだろうが!」
「そんなことないよ!ちょっとは分かってるからあたしなりにできることを考えてるんだってば!」
「これのどこが考えてるってんだ!え!?」
「考えてるって言ってるでしょー!!あのねー、今、日本は一人600万円の借金を背負ってるんですー。社会の先生が言ってたもん!でねー、それって、今この瞬間に生まれた赤ちゃんも早速600万円の借金を背負うってことなんだって!すっごくかわいそうだよね?あたし涙が出ちゃってー。ほら、やっぱり子どもにはすくすくと育って欲しいじゃん!だからねー、あたしなりに考えての行動がこれなわけよ!」
「国債とお前の無駄遣いに関連性なんかないわ!」
「それがあるんだって!あのね、景気をよくする為には、好況になるか税金を上げるかのどっちかしないといけないんだって!税金たくさんとられるのは嫌じゃん!そしたらね、好況になるしかないの!好況、つまり好景気だよ!好景気って言ったらみんながたくさん物を買えばいいわけでしょ?お金をどんどん回してかないといけないわけ!だからあたしはこうして買い物して不況を終わらせるために頑張ったわけ!そうだよ、おとーさんはあたしを誉めるべきだよ!!」
「ふざけんな!!そんな理屈を考えてる暇があったら真面目に勉強しろ!大体お前一人が馬鹿みたいに買い物しても景気は変わらんわ!!」
「そう言って誰もやらなかったら現実は変わらないんだよ!!」
「景気が上向く前にうちが潰れるのはごめんだ!!」

翼を下さい。

2007年06月28日 02:15

大地を蹴り、放物線を描いて宙を舞う姿がとても綺麗でした。
 青空を背に彼はまるで羽が生えたみたいに軽やかに跳ぶのです。

 好きです。
 たった一言伝えることができればいいのに。
 近づくことも話しかけることもできないのは、跳んでいる時の彼があまりに眩しいから。
 神聖過ぎて、手を伸ばすことすら許されないんじゃないかと思うほどに。
 住む世界が違う人間が触れていい相手ではないと、神様が言っているようで。
 でも、好きなんです、神様。
 それでもどうしようもなく好きなんです。
 憧れなんかじゃない。淡い想いなんてものじゃない。
 どうしようもなく魅かれて、魅かれて。
 あの放物線が常に脳裏から離れないくらい。
 私の心を捕まえて離さないのです。

 私にも羽があればいいのに。
 彼のように跳ぶことができれば、一瞬でも神様に近づくことができれば、彼と同じ世界に立つことができるのに。
 でも、私は何も持たない人間だから。
 彼のようには跳べないから。
 私はここにいることしかできないのです。手を伸ばすことすらできないのです。

拒んだ手

2007年06月27日 02:15

限界を感じて芝生の上に倒れこんだ。
 もうこれ以上は走れない。
 息を切らしていると、ふと辺りが暗くなった。
 視線だけで空を見ようとすると、太陽を背にしてあいつが立っていた。
「またお前か」
 逆光で顔が見えないのはいつものことだ。
 名前も顔も知らないそいつは、いつものように俺に言った。
「もう充分走っただろ?」
「まだだ。まだ、いける」
「そんなにボロボロなのに。もう動けないじゃないか」
 今日もお前は俺を追い詰めようとするんだな。
 そうだよ、確かにもう走れねえよ。
 でも。
「走れなくてもまだ歩けんだよ、俺は」
 だからこんなところで倒れてる場合じゃねえんだよ。
「馬鹿な奴だ。それ以上苦しい思いをして何になる」
「別に」
 何かを求めて突っ走ってるわけじゃない。
 でも、足を進めることをやめたくないんだ。
「ここで止まったら俺じゃねえよ」
 だから進み続けるんだよ。
 手を支えにして身体を起こす。
 次こそはこいつの顔を拝んでやろうと意気込んでいたのに、顔を上げた時には既にそいつの姿は消えていた。
「逃がしちまったな」
 つまんねえの。
 けれどもあいつはまた現れるんだろう。
 俺が倒れた時、立ち止まった時、後ろを振り向きたくなった時。
 いいよ、何度でも来いよ。
 何度でも俺はお前を振り払ってやるよ。

朝の一コマ

2007年06月25日 02:14

<「不完全な僕達」藤見忍(高2)>

「……あ」
 久し振りにアイラインを失敗した。
 やだなー。
 テンション下がるなー。
 なんか学校行きたくないなー。
 直してると遅刻しそうだし。
 遅刻してまで学校行く意味ないよな。
 休もっかな、どうしようかな。
 あー、でも香織ちゃんがいるし。
 俺が学校行かなかったら今日一日香織ちゃんは一人でいるわけ?
 それもやだな。
 香織ちゃんが一人になるのはいいけど、一人になった香織ちゃんに雑魚どもが話しかけたりするのは気分が悪い。
 香織ちゃんは可愛いから妬んでるバカ女も少なくないし。
 ってことは、遅刻してでも行かないとまずいよな。俺の知らないところで香織ちゃんに何かが起こるのはむかつくし。
 学校行くならちゃんと直さないとな。あー、めんどくせえ。
 でも仕方ないよな。すっぴんで行くのも勇気がいるし。香織ちゃんに笑われるのも嫌だしね。
 さっさと直して行きますか。
 これで学校休んだとか言ったら俺泣くよ?香織ちゃん。

私と本と君

2007年06月24日 02:13

「……ん、広瀬さん」
「はいっ」
 突然名前を呼ばれて反射的に返事をする。顔を上げると、目の前にはクラスメートの西岡君がいた。
「わっ!?」
 顔の近さに驚いて身体を後ろに引くとガッと椅子が後ろの机に当たる鈍い音が響く。
「え?え?え?」
 いつの間に前の席に座っていたんだろう。
 戸惑っていると、西岡君は小さく笑った。
「そんなに驚かなくてもいいのに」
「驚くよ。いきなり西岡君がいるんだもん」
「いきなりじゃないよ。10分くらい前からいたって。それにさっきからずっと広瀬さんのこと呼んでたんだけど全然気づかないし」
「え?そうなの?」
 うわー、全然気づかなかった。
 なんだか申し訳なくて両手を合わせる。
「ごめんね、すっかり入ってた」
「うん。だろうと思った。広瀬さんって本当に本が好きだよね」
「うん」
 二人でさっきまでずっと読んでいた本を見る。
 読書に集中すると周りのことが一切見えなくなるのは私の悪い癖だ。
 クラスメートはそのことをよく知っているから、またか、というくらいにしか思わないらしいけれど。
 西岡君は本を手にとってあらすじを読み始めた。
「これ、面白い?」
「ミステリーが嫌いじゃなければ面白いと思うよ」
「へえ。じゃあさ、これ借りてもいい?広瀬さんが読み終わったらでいいからさ」
「うん、いいよ。西岡君って本に興味あったんだ」
 あまりそういう感じに見えなかったのに意外だ。
 しかし、西岡君は苦笑して首を振った。
「いや、あまりないかな」
「え?」
 興味ないのに借りるの?
 どういうことなんだろう。首を傾げると、西岡君はこちらに身を乗り出した。
 あ、また近い。
 トクンと音を立てた胸は、不意に西岡君の口から出てきた言葉に止まりそうになる。
「本に興味はないけど、広瀬さんが読んでる本には興味がある」

 それは夕陽の射し込む放課後の教室での出来事だった。

日常に潜む恐怖

2007年06月22日 02:11

<「days」倉橋瑞穂>


「……っ!?」
 声にならない声を上げた瑞穂は、思わず口元を覆った。
「うそ、でしょ?」
 どうしようどうしようどうしよう。
 気をつけていたつもりだったのに!
 最近気苦労も多かったから絶対に大丈夫だって信じてたのに!
 それなのに、体重計は無情な真実を告げる。
「……いち、キロ……」
 一月前に測った時から、1.0多い数字を表示している画面は何度見ても数字が変わることがない。
 無言で体重計から降りて電源を切る。そのまま手はお腹に。
 ちょっと、肉がついた気がする。
 やばい。
 これはやばい。
 このまま放置したらとんでもないことになる。
 もうじきプールも始まるし。
 水泳部の茜なんて、腹筋が割れてるくらい鍛えてるのに。肉付きのよくなったお腹で茜の隣に並ぶことなんてできないじゃない。
 こうなったら、やるしかないだろうか。
 今流行の、ビリーズブートキャンプ。